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見た目と実力を兼ね備えた、ザンバラン【フジヤマNW GT】

リニューアルを施したザンバランのオールレザー登山靴「フジヤマNW GT」をレビュー。

クラシカルな雰囲気がたまらない!
見た目と実力を兼ね備えた、ザンバラン【フジヤマNW GT】

1950年代半ば、キャラバンが布製のアッパーを用いた “ キャラバンシューズ ” を販売するまで、登山靴は “ オールレザー(フルレザー)” が当たり前だった。つまり、アッパーのすべてが天然素材のレザー製だったのだ。現在はレザーに加えて、シンセティック(合成皮革)やナイロンなどの化学繊維も多用され、それらを部分ごとに使い分けている登山靴が一般的だが、今もハイクラスな登山靴は上質なレザーを要所に配し、機能性を高めているものである。

現代では伝統的なオールレザーの登山靴は少なくなった。一般的に言えば価格が高いうえに、シンセティックや化繊を使った登山靴よりも重くなるのが大きな要因だろう。だが、傷みやすいシンセティックや化繊に比べ、レザーの耐久性は格段に高い。手入れをしつつ、摩耗したアウトソールを交換していけば、オールレザーの登山靴は “ 一生もの ” として使える。使いこむことで自分の足にピッタリとフィットするようになった登山靴と生涯付き合えるのならば、少々の重さは気にならないという人は多いようだ。

改良されて再登場した、伝統的 “ オールレザー ” の一足

ザンバランの【フジヤマNW GT】は、そんなオールレザーの登山靴である。

「フジヤマ」の名前を冠する登山靴は、以前の「フジヤマGT」のようにザンバランのラインナップに存在していたが、この【フジヤマNW GT】は最新のリニューアルを施した2023年ニューモデル。オールレザーの登山靴のファンにはうれしい、準新作である。

最重要ともいえるアッパーの素材は、つま先からかかとまでが革加工で有名な、ペルワンガー社製の上質なハイドロブロック・スウェードワックスドレザーを使用。厚みが2.2~2.4㎜もあって強靭なばかりか、防水性も非常に高い。

ちなみに、リニューアル前の「フジヤマGT」のメイン素材は、強い光沢があるハイドロブロック・2.6mmフルグレインレザーであった。

このハイドロブロック・スウェードワックスドレザーは、タンの部分にも使われている。この部分は縫い目がない一枚のレザーであるため、表面に縫い目はなく水が浸透しない。

このタンは二重の縫い糸で履き口の上までしっかりと縫製され、登山靴本体と一体化している。

つまり、ハイドロブロック・スウェードワックスドレザーがショート丈の長靴のように使われているのである。

そのために10㎝近い水たまりに足を踏み入れても、登山靴内部に浸水はしない。

防水性を高めたレザーとゴアテックスで浸水なし

しかも、内側にはゴアテックスも使われている。シンセティックや化繊は表面が傷むと水が染み込むようになり、内側への浸水を起こして内部のゴアテックスが劣化しやすくなる。

その点、【フジヤマNW GT】はレザーのアッパーゆえに、ゴアテックスを保護する力も強い。

ちょっとした沢の横断の際に水の中に入るのにもためらう必要はなく、もちろん降雨時も気兼ねなく使えるのはありがたい。これほど防水性が高い登山靴はないだろう。

ただし、使用されているハイドロブロック・スウェードワックスドレザーにはある程度の撥水性があるものの、擦れやすいつま先やかかと部分を中心に、徐々にレザー表面が濡れていくことは避けられない。

今回はテストのために新品のまま何も手を加えずに使用したが、十分にレザー専用撥水クリームや撥水スプレーを吹きかけてから使用するのがおすすめだ。
キャラバンではアフターケア用品として【Grangers】の取り扱いもあり、このフジヤマNW GTのメンテナンスに欠かせないケア用品も、多数ラインナップされている。

足首には、よりソフトなレザーでフィット感をアップ

一方、足首周りを見ると、ここに使われているのはハイドロブロック・スウェードワックスドレザーよりも格段に柔らかな、薄く加工されたフルグレインワックスドレザーを採用している。カラーリングを見てもわかるように、フジヤマNW GTには2種類のレザーが併用されているわけである。

タンの裏側にもこのフルグレインワックスドレザーが用いられ、内側のクッション素材を包み込んで足首に気持ちよくフィットしていく。

アッパーがとても硬そうに見えるフジヤマNW GTだが、足首周りは非常にソフトだ。

ハイカットながら、ミッドカットのような履き心地すら感じさせるほどである。

手間のかかる縫製方法で生まれる、驚くべき強靭さ!

なお、縫製には堅牢性の高さで知られるノルウェージャン製法が用いられている。

これはスクイ縫いとダシ縫いを二重におこない、アッパーとミッドソールを縦方向と横方向へ同時に固定するもの。しかも縫い糸の表面は樹脂でコーティングされ、まず切れることはない。どうやったら破損するのかと思うほどの強靭さだ。
この伝統的なノルウェージャン製法で作られた革靴こそが、昔ながらの革靴の品格と味わい深さを物語っているのである。

このフジヤマNW GTの重量は約950g(EUR42/片足)。シンセティックや化繊を中心に作られた登山靴に比べれば軽くはない。だが、一生ものになりえるほど強靭で、防水性も高いのである。

次に、フィット感を左右するシューレースにかかわる部分を見てみよう。

フジヤマNW GTのシューレースは丸紐タイプで、つま先から足首の屈曲部分まではDリングに通す。このDリングは滑りがよく、軽い力で締めることができる。古くから使われているクラシカルなパーツであるDリングは、フジヤマNW GTの雰囲気にもよく合っている。

シューレースを理想的に締めつけるための、フックの使い分け

Dリングよりも足首に近い部分には、2種類の異なるフックを用いている。

上の2つはフックの曲がりが緩めで、あえて固定力を弱めている。それに対し、それらとDリングの間のフックは曲がりが強く、シューレースを引っ掛けるとそれだけでシューレースが固定される。

そのために、つま先から足首の屈曲部分までフィットさせたら、いったんそこで固定できるのだ。適切にフィットさせられれば、この部分は登り道でも下り道でも締め付け具合を変える必要はほとんどない。だが、屈曲部分よりも上は登りでは少し緩め、下りでは少しキツめにすると歩きやすい。これは登山靴を履くうえでのセオリーだが、フジヤマNW GTは3種のDリングとフックを組み合わせることで、このセオリーを手早く実現できるのである。

上の写真は、山中でシューレースの締め付け具合を変えているところだ。下山に備えて足首部分のフィット感をすばやく調節でき、まったくストレスを感じなかった。

足なじみのよさに納得! 日本人に合わせた足型を採用

さて、実際に足を入れてみると、フジヤマNW GTのフィット感はとても良好だとわかる。足幅に余裕があり、先に述べたシューレースとフックで適度に締めこんで自分の足に合わせれば、広すぎることも狭すぎることもないのだ。

ザンバランはイタリアのメーカーだが、この登山靴の名称は日本語の「フジヤマ(富士山)」。じつはフジヤマNW GTは日本人の足型に合わせて製造された、日本向けの登山靴なのである。欧米のメーカーの登山靴のなかには日本人には幅が狭いものも数多くあるが、少なくてもフジヤマNW GTに関しては心配無用だ。

フィット感が良好なのは、同じように日本人向けに作られたインソールの力も大きい。

立体的にデザインされ、かかとのホールド感が抜群。弾力感も十分である。

安定感の高さが際立つ、その履き心地

そんなフジヤマNW GTだが、僕が歩いてみた感想は、ずばり「安定感が高い」だ。

オールレザーのフジヤマNW GTは、化繊などをアッパーにした同レベルの登山靴よりも少し重く、見た目のボリュームも大きいのだが、その重さと大きさが歩行中の安定感を生んでいる印象である。

実際、滑りやすく凹凸が多い登山道でも足元がぐらつかず、一歩一歩確実に歩いていける。丈夫なアッパーが足を守ってくれている感じも強い。

フジヤマNW GTのアウトソールも、歩行中の安定感が高いタイプだ。

ヴィブラムNorTrackのアウトソールは、グリップ力の高さが大きな特徴。アウトソールのひとつひとつの凹凸が地面に食い込み、体を楽に前方へ押し出してくれる。

岩場にも対応、少し硬めのアウトソール

次は、フジヤマNW GTのアウトソールのラグパターンの全体がわかるカットだ。

アウトソールの素材自体は硬く、岩稜帯でも通用するライトアルパインタイプに近いが、ラグパターンは溝が深いトレッキングタイプ寄りである。

つま先にはクライミングゾーンのような平坦な部分があり、岩の突起に足をかけやすくなっている。また、エッジが効いた、かかとも同様。岩の小さな凹凸をとらえて体を保持し、安定性を高めることに貢献している。

だから大きな岩の上でも滑りにくく、歩いていて安心感がある。

内部には3.5㎜厚のインソールボードが採用されているからか、ゴツゴツした岩の上でも足裏に無用な刺激がないのも好印象だ。

こんなフジヤマNW GTだから、クライミングの要素が加わってくる日本アルプスなどの岩稜帯以外ならば、大半の岩場で活躍してくれるはずである。

柔らかに足首周りをサポートし、捻挫を防止

岩場とまではいえないものの、岩や石がゴロゴロと点在している登山道にもフジヤマNW GTは適していた。

こういう場所を歩くと足首に負担がかかるものだが、フジヤマNW GTの足首周りのアッパーは前後左右にほどよく曲がり、柔軟に負荷を受け止める。

その結果、歩行力は妨げずに捻挫を防いでくれる。しかもクッション性が高いため、足首に痛みを覚えることもない。

おそらく、アッパーすべてにハイドロブロック・スウェードワックスドレザーを使っていれば、捻挫の防止力はもっと高まるが、歩き心地は著しく損なわれるだろう。足首部分のみ薄く加工されたフルグレインワックスドレザーにしているからこそ、ほどよいバランスが生まれているのである。ひとくちにオールレザーの登山靴といっても、フジヤマNW GTが2種類のレザーを使い分けている意味がここにある。

サイドに溝を加え、衝撃吸収性を高めたミッドソール

それなりの重量がある登山靴のわりに、フジヤマNW GTは疲れも少ない。

その理由のひとつはミッドソールの衝撃吸収性にあるだろうが、このミッドソールをよく見ると、ちょっとした工夫が加えられていることがわかる。

注目したいのは、ミッドソールの中央上部だ。フジヤマNW GTはそこに溝を入れ、「コ」の字型にくびれさせているのだ。

上の写真で言えば、上部の濃いグレーと下部の薄いグレーとの間にある、黒い箇所のことである。

この部分はくびれている分だけつぶれやすく、体重がかかると適度に圧縮されて衝撃を緩和するという。指で押さえただけでもつぶれるくらいだから、その効果はイメージしやすい。じつはこの工夫、リニューアルされた「フジヤマNW GT」の一大ポイントなのである。

しかし、どれほど衝撃吸収に効果があるのかは判断しかねるのが、正直なところでもある。昔のフジヤマGTと履き比べればわかりそうだが、もはや数年前に製造終了。現段階ではあのザンバランが自信をもって加えた工夫だという点において、その効果を信じたいと思う。

重量よりも、耐久性の高さや経年変化の “ 味 ” を求める人に

フジヤマNW GTは、急峻で高度差が激しい岩稜帯や雪山を除き、大半の山で実力を発揮しそうな登山靴であった。

岩場での安定感も高く、足首周りをしっかりとサポートし、捻挫の恐れを軽減してくれる。
気になる点があるとすれば、それはやはり約950g(EUR42/片足)という重量だ。この重量は、一生の相棒となりえるほどの耐久性の高さとのトレードオフの関係とはいえ、脚力に自信がない人は不安になるかもしれない。

そういう方には、同じザンバランの「パスビオGT」やグランドキングの「GK88」も検討してみるといい。どちらもアッパーが天然のレザーではないので、フジヤマNW GTのように経年変化を楽しめる登山靴ではないが、より軽量である。

フジヤマNW GTは昔ながらのクラシカルなルックスに、現代的な工夫を加えた “ 古くて新しい ” 登山靴だ。たしかに重量の面では、現代のシンセティックや化学繊維を多用した登山靴には敵わない。その代わり、長年使える耐久性とハイドロブロック・スウェードワックスドレザーが経年変化して生まれる “ 味 ” を楽しめる。履けば履くだけ足になじみ、いつしか手放せない存在になるのは、こういうタイプの登山靴だ。ひとたび手に入れれば、誰もがずっと手元に置いておきたくなるに違いない。

文・写真=高橋庄太郎

今回レビューした商品

フジヤマ NW GT  ¥61,600 (税込)

カラー/440ブラウン 全1色
サイズ/EUR40~47(約25.0~28.5cm)
重量/約950g(EUR42片足標準)

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