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足さばきも軽やか、ザンバラン「サラテ5.13 GT」
アプローチシューズのような特徴を持ちつつも、トレッキングシューズらしい履き心地があるザンバラン「サラテ5.13 GT」をレビュー!
ユニークな工夫でスピーディに山を歩ける!
足さばきも軽やか、ザンバラン「サラテ5.13 GT」

登山用のシューズは、トレッキングタイプ、アルパインタイプ、アプローチタイプなどに分類されるが、はっきりと区別できるものでもなく、その境目はとても曖昧だ。近年はとくにカテゴリー分けが難しくなっており、今回ピックアップするザンバランの “ サラテ5.13 GT ” はその筆頭格といえるかもしれない。ルックス上はアプローチシューズのような特徴を持ちつつも、トレッキングシューズらしい履き心地があり、しかも一見ではミッドカットだが、実際はローカットに近い履き心地のシューズなのである。
“ カフ ” を外側から柔らかなアッパーで覆う、二重構造
まずはシューズとしての特徴を外観から見ていこう。
サラテ5.13 GTは全体的にはスリムなシルエットで、重量は約440g(EUR42片足)。見ため通りに軽量だ。
その外観はミッドカットのアプローチシューズに近く、アッパーのグレーの部分は丈夫なハイドロブロック・スウェードレザーである。
一方で、足首周りを黒く覆うのは、非常に柔軟で伸縮性が高い4WAYストレッチのマイクロファイバーだ。じつはこのマイクロファイバーの箇所は外側に露出はしているものの、純然たるアッパーではない。
この履き口部分をメーカーでは “ カフ(袖)” と呼んでいる。たしかに足首部分だけを見れば袖のような筒型の形状だ。
だがマイクロファイバー自体は足首から連続してつま先までつながっており、ソックス状に足全体を包み込んでいる。そして、その上をグレーのスウェードレザーのアッパーがカバーし、足を守っているわけである。
だから、アッパーとマイクロファイバーの間には奥深くまで指が差し入れられる。なんともユニークな構造だ。
アッパーだけではなく、足首にぐるりと巻き付いている “ フレキシブル・アンクルサポート ” というパーツも同様に、カフの上を覆っているものの、アキレス腱付近で縫い付けられている以外は分離している
そのために、足首をカフの上から帯状のフレキシブル・アンクルサポートで締めても、足首まで硬さのあるアッパーで覆ったミッドカットやハイカットのシューズほどの圧迫感はなく、適度なホールド感を得られるという。別の言い方をすれば、控えめなホールド感ともいえ、それゆえにローカットとミッドカットの中間のような軽やかさが期待できそうだ。
アプローチシューズ的なシューレース仕様で、フィット感は良好
つま先部分はかなり先端近くまでシューレースで締め付けることができる。このあたりもアプローチシューズの特徴と似ている点だ。
アッパー素材自体がソフトなこともあって、柔らかに足を包み込み、フィット感は上々である。また、つま先からかかとまではランドラバーで覆われ、岩などにぶつかったときに足を守る力も十分で安心できる。
最近は登山用でも厚底のシューズが数多く登場しているが、それに対抗するようにサラテ5.13GTのミッドソールは厚みを抑えてある。しかし薄くてもEVA素材のミッドソールはクッション性が高く、内側から指で押すとフワフワとした質感。弾力性や衝撃吸収性も申し分ないようだ。
ミッドソール同様、アウトソールもかなり薄い設計になっている。登山用のシューズとしては、ちょっと珍しいくらいである。これは “ ヴィブラムPepe ” というアウトソールで、厚みを抑えることによって軽量化を最大限に考えられて考案されたものだという。
そのアウトソール “ ヴィブラムPepe ” は、非常によく曲がる。その薄さもあるが、素材自体が柔らかいからだ。これはサラテ5.13 GTの屈曲性を高めることに貢献している。
見た目はアプローチシューズ風のサラテ5.13 GTだが、一般的なアプローチシューズであればアウトソールはどれももっと硬い。つまりアウトソールに関していえば、アプローチシューズではなく、トレッキングシューズ的なのである。
シューズ内部には立体的な構造のインソールが採用されている。
表面にはドット状の小孔が並び、裏面との間に通気を促す構造だ。履いてみるとわかるが、普通のインソールに比べ、足裏の湿り気が少なくなる印象である。
ローカット? いやミッドカット? おもしろい履き心地
では、ここからは実際にサラテ5.13 GTを履き、山を歩いたときの様子だ。総じていえば、テスト前のチェックで感じた点がほとんど実証されたかのような優れた履き心地であった。
足を入れた瞬間、改めて実感したのは、やはりフィット感のよさだ。
サラテ5.13 GTは、素足に履く通常のソックスの上に、別のソックスを重ね履きしたような感触で、足全体が心地よく包み込まれている。大げさに言えば、ソックスの裏に直接アウトソールを取り付けたかのような感覚でもあり、これまでにない履き心地なのである。
軽量かつスリムなので、前進する際の足の動きもよく、とても軽やかに歩いて行ける。
一方、足首周りのホールド感はやはり控えめだった。履き心地がミッドカットとローカット、どちらのほうに近いかといえば、僕の感覚ではローカットである。とはいえ、単純なローカットタイプよりは確実に足首周りのホールド感を感じることができる。
また、あれだけミッドソールやアウトソールが薄いにも関わらず、木段のような場所を長く歩いていても足に受ける衝撃はあまり感じられない。一般的なアプローチシューズと比べると、かなり快適な履き心地といってよい。
効力は十分、“ フレキシブル・アンクルサポート ”
つい先ほど、履き心地はローカットと書いたばかりだか、下の写真のように足首を大きく曲げた場合は、“ フレキシブル・アンクルサポート ” が効果を発揮した。
ただのローカットシューズであれば、これほど足首を曲げれば、かかとが浮いてくるものだ。下手をすると、シューズが脱げてしまう恐れすらある。その点、アンクルサポート機能を搭載しているサラテ5.13 GTは、かかとが浮き上がらず、足全体のフィット感を保ってくれる。歩行感を損ねず、よく考えられていると感心する。
ただ、このようにひとたび足を入れればフィット感に優れるサラテ5.13 GTだが、カフの伸縮性が高いために、シューレースを緩めても足の出し入れがしにくいこともある。
しかしカフの前後につけられている2つのループテープを引っ張ると、シューズの脱ぎ履きがスムーズに行なえる。このテープがなければ、脱ぎ履きは相当に面倒だっただろう。地味ながら重要な機能パーツなのである。
アウトソールのグリップ力もなかなかのものだ。
平坦な場所はもちろんのこと、滑りやすい斜面でも地面を確実に捉え、体をしっかりと支えてくれる。
多少ベタつくような湿った土でも、アウトソールの凹凸にこびりつく泥の量は少なく、グリップ力はあまり損なわれなかった。
そのため、平坦な場所ではとくにスピーディに行動しやすい。
じつはこのサラテ5.13 GTの「5.13」はヨセミテのSALATHEクライミング・グレードを表しているらしく、もともとはその現場まで歩くためのアプローチシューズをイメージしていたようだ。だが、結果的にはより汎用性の高いモデルに仕上がり、メーカーとしては “ スピードハイク ” や “ ファストトレッキング ” に向いているシューズという位置付けにしている。だからモデル名に「5.13」の数値が残されてはいても、軽量なトレッキングシューズのようにすばやく歩くのに向いているのだ。
グリップ力と屈曲性が生み出す岩場での安定性
ここからは岩場での歩行テストである。
先に述べているように、サラテ5.13 GTのアウトソール “ ヴィブラムPepe ” は柔らかだ。だが、“ ヴィブラムPepe ” は、グリップ性能に優れ、滑りにくいことで知られる “ ヴィブラム・メガグリップ ” コンパウンドを採用したアウトソールでもあり、岩場でのグリップ力には定評がある。
岩の上を歩いているとわかるのは、前方への動きはもちろんのこと、横滑りを抑える力も高いことだ。
とはいえ、岩の表面に乾いた土がついていると、それが潤滑剤のような影響を与え、さすがにいくらかは滑ってしまう。だが、そうでもなければ一般的な登山靴のアウトソールよりは確かに滑りにくかった。
さて、下の写真はこれまでのカットとは別の場所でテストしたときのものである。
歩く人が多い場所だったからか、岩肌がツルツルに磨かれている。しかし、このような場所でも乾いてさえいれば、柔らかなアウトソールが岩肌になじみ、十分に体を支えてくれる。サラテ5.13 GTのグリップ力は確かなものであった。
より急峻な岩場では屈曲性のよさも光っていた。
足首の可動域が広いため、足を大きく上げなければならないような状況でも、無用な力を使わずに体を持ち上げられる。その硬さで岩場での安定性を生むアルパインシューズとは別の効力で、岩場での行動力を高めているのがサラテ5.13 GTなのである。
この屈曲性のよさは、アッパーの工夫からも生みだされていた。
足指の屈曲部分に合わせ、アッパーのスウェードレザーには大きな切れ込みが入り、さらにシューズ全体を曲がりやすくしているのである。
この工夫により、アウトソールの先端が岩にかかっているだけでも、屈曲しやすく十分なグリップ力が得られる。
この点は、ローカットのような柔らかな履き心地のあるサラテ5.13 GTらしい長所であろう。
しかし足首の可動域が広いということは、一般的なミッドカットやハイカットのシューズほど足首を守る力が強くはないということでもある。それらのシューズよりは捻挫の危険は少々高くなるのは、スピーディな歩行を目的としたサラテ5.13 GTの宿命であろう。少しでも怪我の可能性を低くしたい方は、同じザンバランでも【パスビオ GT】のようなタイプがお勧めだ。
ゴアテックスを使い、冷たさは感じても内部への浸水はなし!
こんな感じで、僕はサラテ5.13 GTのテストを何度も繰り返していった。
雨天には遭遇しなかったため防水性については確かめられなかったのが残念ではあるが、その代わりに沢のなかに入って水が浸透するかどうかの確認はしておいた。
サラテ5.13 GTはゴアテックス・エクステンディッドコンフォートを採用しており、当然ながら内部への浸水はない。ただ、アッパーの下のマイクロファイバーの表面に水が染み込むと、普通のシューズよりも冷たさをダイレクトに感じる。春先や晩秋に雨に遭遇すると、一般的な登山靴よりも足先が冷えやすいので、その点は留意しておく必要はありそうだ。
万能ではないが、さまざまに使える汎用性の高さ
ともあれ、テストを繰り返して感じたのは、当初から僕が感じていた「滑りにくさ」「屈曲性のよさ」「軽やかさ」という点に間違いがないということだ。
とくに日帰り登山のように荷物が軽い場合、サラテ5.13 GTは大いに活躍する。ソックス状の構造によってフィット感がすばらしく、とにかく履き心地は軽やか。足に負担を与えないので、人によってはいつもよりも行動時間が短縮できるかもしれない。サラテ5.13 GTはさまざまな山で使いやすく、僕は汎用性が高いシューズという実感を持った。
とはいえ、けっして万能ではない。テント泊のときのように荷物が重くなる場合は、足首のホールド力が少ないため、足首が強く健脚でないとかえって疲れやすくなる恐れもある。だが一般的な日帰り登山からファストトレッキング、そして岩場へのアプローチまでシチュエーションに応じて高度なパフォーマンスを見せてくれるはずだ。僕自身もかなり気に入ってしまい、これからの出番は多そうである。
文・写真=高橋庄太郎

