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アウトソール素材の違いで、どちらを選ぶか?大定番の渓流シューズ【KR_3XF】と【KR_3XR】をひも解く。

キャラバンの沢靴ブランド『渓流』から、【KR_3XF】と【KR_3XR】をレビュー。沢登り初心者の方にもわかりやすいように履き心地とともに、アウトソールの違いを中心とした沢靴の特徴や使い分けについても説明します。

沢靴選びに必見!
アウトソール素材の違いで、どちらを選ぶか?大定番の渓流シューズ【KR_3XF】と【KR_3XR】をひも解く。

山の地形から生まれた渓谷(沢や谷間)をルートとして登っていく「沢登り」は、日本で独自に発達してきた登山スタイルである。その証拠のひとつが、日本でいう渓流シューズ、いわゆる“ 沢靴 ”として知られるタイプのシューズは、海外ブランドから発売されていないことだ。キャニオニングなどに適した“ ウォーターシューズ ”はあるが、それらは形状や構造からいっても“ 水抜けがいい登山靴 ”といった趣で、やはり我が国の渓流シューズとは大きく異なる。

日本の渓流シューズのひとつの特徴は、かかとが低く、ミッドソールも薄いこと。その結果、岩や地面の凹凸を感じやすく、足裏感覚を研ぎ澄まして歩ける。また、以前はアウトソールの素材はもっぱら純毛や化学繊維のフェルトだったが、現在は水に濡れていてもグリップ力を発揮するラバー素材の沢靴も登場している。

さて、ここで取り上げる2モデル、「KR_3XF」と「KR_3XR」は日本を代表する渓流シューズのパイオニア、キャラバンの沢靴ブランド【 渓流 】だ。

右のレッドが「KR_3XF」で、左のブルーが「KR_3XR」である。似たような名称だが、よく見ると、最後のアルファベットが異なっている。

その違いは、ずばりアウトソールの素材を意味している。「KR_3XF」の“ F ”はFelt(フェルト)で、「KR_3XR」の“ R ”がRubber(ラバー)だと理解していただきたい。

一般的な登山に比べ、沢登りの経験を持っている人はまだまだ少ないだろう。そこで、今回は沢登り初心者の方にもわかりやすいように、これら2モデルの履き心地とともに、アウトソールの違いを中心とした沢靴の特徴や使い分けについても説明していきたい。

まずは、「KR_3XF」と「KR_3XR」の“ 異なる点 ”を見ていこう。

繊維を固めた“ フェルト ”と “ ラバー ” のヴィブラム・イドログリップの違い

以下は「KR_3XF」である。その特徴は、前述したようにフェルト製のアウトソールだ。

Feltというものは、もともとはウールなどを圧縮して作った天然素材の純毛のことを言うが、近年は化学繊維のものも多く、「KR_3XF」に使われているのは国内生産の13㎜のポリプロピレン製フェルト。純毛よりも摩耗しにくいのが長所だ。

それに対し、「KR_3XR」はラバー製のアウトソール。それも、ヴィブラム社がウェットコンディションに合わせて開発した、水濡れに強いイドログリップというものである。

丸が並んだソールパターンで、その丸の縁はそれぞれエッジが立っていて、岩などの上の細かな凹凸をとらえやすくしている。

「KR_3XF」と「KR_3XR」の違いは、このアウトソールの違いに尽きる。逆に言えば、他の要素はすべて共通だ。

とはいえ、フェルトのアウトソールはすり減りやすいことを前提に、ラバー製のアウトソールよりも厚みがあるものをもとから使っている。そのために2モデルを並べてみると、「KR_3XF」のほうが「アウトソール+ミッドソール」の厚みは5㎜程度増しているが、これはあくまでも素材の摩耗に対応するための仕様であり、シューズの構造自体を変えているわけではない。

メッシュ素材に水抜き穴など、共通のディテール

ここからは「KR3XF」と「KR_3XR」の共通する特徴だ。特徴を説明するカットは、どちらかのモデルに代表させているものもあるが、そのあたりは気にしないで見ていただきたい。

2モデルともに、つま先~サイド~かかとまでラバーでぐるりと覆い、耐久性を高めると同時に石とのぶつかりや擦れから足を守るガードの役割を果たしている。

つま先には、より硬いトゥバンパーもつけられ、ますます衝撃を緩和してくれる。

そのラバーの内側には、5本の縦に長い水抜き穴が設けられ、ここからシューズ内部の水を排出できるようになっている。3Dメッシュポリエステルのアッパーの水切れもよく、乾燥が早いのもうれしい。

また、メッシュポリエステルの上に配置された合成皮革は水濡れに強く、傷みにくいのが長所だ。

表側のメッシュは耐久性、耐摩耗性を重視して硬めの素材感だが、内側のメッシュは比較的柔らかである。

クッション性高く、足へのなじみも上々だ。

シューレースは結びやすく使用中に解けにくい平紐タイプ。

屈曲部のみハトメではなく細いコードを使い、フィット感を高めるとともに緩みにくくしている。

かかとには、指をかけられるループがつけられている。

これによって、シューズの脱ぎ履きが容易になっている。

シューズ内部には薄手のインソール。

水を含みにくい素材で、シューズ内に無用な水をためこまない。

インソールの下に当たる白いボードは、かなり硬めだ。

薄手のミッドソールとアウトソールで足裏の感覚を活かしつつも、尖った岩による足裏の突き上げ感はできるだけ減らし、足への負担を取り除いている。

片足ずつシューズを変え、山中で履き心地をテストすると……

このような「KR_3XF」と「KR_3XR」の履き心地はどのように違うのか?

僕は左足に「KR_3XF」、右足に「KR_3XR」を履き、実際に沢を歩いてみることにした。
なお、足元が不安定な沢のなかでひとり自撮りしながらのテストゆえ、険しい場所で撮影するのは不可能だったが、ご了承いただきたい。それでもカメラを水没させて、1台壊してしまったが……。

ちなみに、これらのシューズに合わせて使ったソックスは、発砲ゴム製(ネオプレン、クロロプレンとも呼ばれる素材)の「渓流CRソックス3㎜」。左右非対称の立体縫製された形状をしており、柔らかくてフィット感が高く、シューズとの間に砂や小石が挟まっても肌が痛くならないのがいい。もちろん保温性も十分で、雪解け水が混じる春から、水が冷たくなる秋まで使いやすい。

今回の2モデルとも、この渓流CRソックス3㎜を合わせる前提のサイズ設計となっている。

なお、本来であれば沢登りを行う際には発泡ゴム製のソックスのほかに、同じ素材で作られた「渓流 スパッツ」を使用したほうがいい。
それは水中で足元が見えない状況下で歩行する際、脛を岩肌から守る重要な役割があるとともに、靴内部やソックス内に砂などの異物が入るのを防ぐ役割を持っている。
さらにはスパッツでシューレースの結び目を覆うことで、歩行中にシューレースを枝などに引っ掛けないよう隠すためでもあり、もちろん足冷えを防ぐ効果もあるのだ。

(参考画像)

ただし今回は靴全体がハッキリ見えるよう、あえて渓流スパッツは装着しなかった。
その点をご了承いただきたい。

ヘルメットは、カンプ「ストーム」。Lサイズで約250gと超軽量だ。

幅は若干狭めの設計で、頭の大きい人には合わない可能性もあるが、その分だけフィット感は高い。

テストで入渓した沢は、あまり雨が降っていない時期だからか、水量は少なめだった。

そんなこともあり、薄っすらとした苔でヌルついた岩が多く、テストにはもってこいとなっていた。

水中での視認性が高いレッドとブルーという色使い

水中に足を入れてすぐに感じたのは、これら2モデルの視認性のよさだ。とくに「KR_3XF」のレッド色はすばらしい。

じつは「KR_3XF」にはブルーのモデルもあるが、泡立つ水中でも自分の足の位置をしっかりと確認したいのなら、このレッド色がいい。ブルーの視認性はそこまでではないとはいえ、透明度が高い水のなかでは十分であり、自然のなかでは違和感を覚えないカラーである。
さらに2023年からは渓流釣り師たちからの悲願でもあったブラック色が新たに加わり、3色展開となる。沢登りを主体に考えるならば足元は水中でも目立つ色がいい。一方で、身を潜めながらの渓流釣りでは目立たない色が望まれるようだ。

フェルトVSラバー、グリップ力が高いのは?

フェルト製のアウトソールを持つ「KR_3XF」の水中でのグリップ力はさすがであった。

苔がついていて、「もしかしたら滑るかも?」と恐れていた岩の上でもツルっとはいかず、ほとんど滑らないのである。苔に密着し、その表面をいくらか引きはがすような感じでグリップ力を高めるのは、フェルトならではの性質だ。よほど分厚い苔や腐った流木の上でもなければ、安心して足が置ける。

また、フェルトはある程度の水を含むが、それによってシューズが極端に重くなるような実感はない。

水はけのよいアッパーも無用な水分をすみやかに流し出し、これもまたシューズの軽量さを保つのに貢献していた。

ウェットコンディション専用に開発された、ヴィブラム・イドログリップを採用した「KR_3XR」のグリップ力もなかなかのものである。

「この苔の上ではさすがに滑るでしょう?」と思っていた岩の上でも意外と滑らず、スピーディーに歩いて行けるのには感心した。エッジの効いたイドログリップの丸いパターンは想像以上に苔の表面に食い込むようである。

細かな凹凸がある岩の上ではますます効果的でフェルト製のアウトソール以上のグリップ力を感じるくらいである。

だが、ヌルついた岩の上でのグリップ力は、やはり「KR_3XF」のフェルト製アウトソールに軍配が上がるのは否めない。“ 滑りにくさ ”を第一に考えれば、選ぶべきは「KR_3XR」ではなく、「KR_3XF」である。

フェルトソールは海外ブランドのシューズではほとんど使われない素材だが、日本の渓流シューズでは大定番の素材である意味がよくわかる。

水はけがよく、水を含んでも軽量を保つ素材

アウトソールの違いにより、これらのシューズには重量に差が出ている。具体的には「KR_3XF」は約385gで、「KR_3XR」は約428g(どちらも26.0㎝片足)だ。

ラバー製のヴィブラム・イドログリップのほうがいくぶん重いが、それでもかなり軽量だ。

軽量に作られているために、足さばきも軽い。その足さばきのよさには、メッシュ主体のソフトなアッパーも貢献しているのは間違いない。

ただ、そのためにシューズのサイドが岩などに押し当てられると、少しダイレクトに凹凸感を覚える。これは仕方がないことだろう。

だが、つま先のような要所は補強されているので、痛みを感じることはなかった。

さすが渓流シューズの大定番だけあり、重量と強靭さのバランスがよくとれているという印象だ。

“ 沢を離れた場所 ”でも、どれくらい使えるか?

さて、沢登りといっても、つねに水流とともに進むわけではない。

ときには沢から離れ、沢筋を迂回したり、滝などの落差のある場所を巻いたりしなければならず、沢を歩き終わったあと、一般の登山道を歩いて下山するのも普通のことだ。そのときに使いやすいのは、フェルト製アウトソールの「KR_3XF」よりも、圧倒的にヴィブラム・イドログリップのラバー製アウトソールを採用した「KR_3XR」である。

フェルトはヌルつく苔には適しているが、表面が崩れる土や砂の上ではグリップ力をあまり発揮できないのである。

しかもフェルトに土や砂がこびりつくと、ますます滑りやすくなる。
沢に特化したシューズの必然として、沢以外の場所には弱いのである。

しかし、「KR_3XR」のヴィブラム・イドログリップは、沢以外の場所では一般的な登山靴のグリップ性能にかぎりなく近い。

土や砂へアウトソールが食い込み、倒木や乾いた岩の上も苦にならない。「KR_3XR」の機動力の高さはかなりのものである。

僕はこのときのテスト以外でもこれら2モデルを何度か試してみた。
以下はアウトソールの摩耗の様子である。

「KR_3XF」のフェルトは少し摩耗が進み、アウトソールの縁のエッジもなくなって丸みを帯びていた。しかしフェルトのグリップ力が低下しているわけではなく、むしろ柔らかさが増して岩に密着し、グリップ力が高まった感が強い。それに対し、「KR_3XR」のヴィブラム・イドログリップは、あまり摩耗せず、グリップ力は初期と同じように高いまま維持されている。これは想像以上であった。なお、2モデルとも摩耗したアウトソールは張替えが可能である。

異なる長所を持つ2モデル。そのどちらを選ぶかは……

そんなわけで、「KR_3XF」と「KR_3XR」の特徴がおわかりいただけただろうか?

沢のなかだけを考えれば、フェルトの「KR_3XF」のグリップ力の安心感はすばらしい。まさに日本が誇る“ 沢靴 ”である。沢のなかは想像以上に滑りやすく、そのことがまだ実感できていない初心者ほど、「KR_3XF」のようなシューズに頼ったほうがよさそうだ。だが、土や砂、一般登山道には不向きであり、場合によっては別の登山靴を併用しなければならなくなる。その点、ヴィブラム・イドログリップの「KR_3XR」ならば、沢のなかも登山道の上も一足で済ませられる。これは非常に助かるポイントだ。ただし、「KR_3XF」よりは沢の状態(苔の状況など)次第では滑ることを忘れてはいけない。

僕個人の話をすれば、沢登りのメインとしたいのは、やはり「KR_3XF」。ハードな環境での安全性を考えると、できるだけ滑らないシューズがベターだからだ。その場合、沢以外の場所のために、別の登山靴を用意するのはやむを得ない。だが、いつもハードな沢登りをするわけではない。場所によっては「KR_3XR」一足で済ませ、入渓から下山まで身軽に行動したくもなる。理想はどちらも手元に置き、使いわけることだが……。なかなか悩ましい。

文・写真=高橋庄太郎

今回レビューした商品

KR_3XF  ¥19,800 (税込)

190ブラック/22.5~28.0・29.0㎝
220レッド /22.5〜28.0cm
660ブルー /22.5〜28.0・29.0cm
全2色

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KR_3XR  ¥22,000 (税込)

660ブルー/22.5〜28.0・29.0cm 全1色

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