培ってきたノウハウを集結、
渓流シューズ「KR_MSF WIDE」
開発秘話
KR_MSF WIDEの最大の特長は、
渓流シューズを形作るアッパー生地にステッチ箇所(縫製箇所)が
ほとんど存在していない点が挙げられます。
それによって水中での歩行中、岩に擦れてステッチ(縫製糸)が切れる心配がなく、
渓流シューズとしての課題を見事にクリアしているのです。
企画開発に繋がる発案きっかけ
加硫製法からセメンティング製法へ
沢登りシューズ『渓流』は、その特異な使用環境から一般登山靴よりも厳しい環境での使用が前提となっており、アウトソールを接着する際にもセメンティング製法(接着剤)ではなく、加硫製法(素材同士を溶解接合)が用いられていました。何故ならば、常に水に濡れる環境下で使用することで、接着剤が剥がれてしまう危険があったためです。
当初、強度面から加硫製法を用いていた渓流シューズですが、セメンティング技術の発展により今では、ほぼ加硫製法と変わらない強度がセメンティング製法でも確立できています。
それに加えて、アッパー生地にプリントを施す特殊な印刷機械も登場したことで、デザインの幅も大きく広がりました。そのため、渓流シューズにもアッパー生地にプリント加工を施した製品が誕生しました。過去を振り返ると、KR_MSF WIDEの前身でもある “ ステッチが表面に露出していない渓流シューズ “ が、いくつか存在しています。
2014年モデル:KR_1
2018年モデル:KR_4
2019年モデル:KR_4XR
進化する加工技術
さらに進化を遂げた、3Dシームレス・プリント加工技術
当時のプリント加工は平面的な形状のみでしたが、3Dシームレス・プリント加工の技術進化によってプリント自体の厚みを変えながら、何層にも重ねてアッパー生地にプリントしていくことが可能となり、今ではKR_MSF WIDEのようにアッパー補強プリントによって、より強固な耐久補強性を保つことが可能となりました。
それでも、製品化を実現するためには下記のような様々な課題を乗り越えなければなりませんでした。
- 耐久性 : 剥離、ひび割れ、溶解、膨潤、摩耗への耐性
- 柔軟性 : 屈曲時、シワが足甲に干渉しないようにする(剥離、ひび割れの原因にもなる)
- 軽量性 : 補強プリント、補強材自体の重量バランス
- 疎水性 : 保水状態による重量増加有無
KR_MSF WIDE企画開発、始動
新たな渓流シューズ企画開発コンセプト
KR_MSF WIDE商品企画開発を進めるうえで、既存商品との差別化を含めて様々な検討が行われました。その中で、カテゴリとしては当初より登攀性能を重視した沢登りシューズではなく、長時間/長距離での釣行(歩行)を考慮した【渓流釣り】にフォーカスした、汎用性の高いモデル開発と決定しました。
- 渓流アクティビティとして沢登りに並び親しまれている、渓流釣りにフォーカス
- 釣りをしながら移動する為、足元を注視できず岩に靴が当たることが多く耐久性が必要
- 長時間、長距離の釣行(歩行)を考慮する
このことから、沢登り同様に渓流釣りではシューズの耐久性が求められるため、ステッチの糸切れが起きないシームレス仕様と、足全体を保護する安全性、さらにはしゃがみ動作に耐えられる柔らかい履き口、軽量性、屈曲性が求められました。
一筋縄にはいかない苦労の連続
まず、耐久性と軽量性・柔軟性との両立を図るため、アッパー生地に施す手法としてTPU膜仕様と3Dプリントを同時進行で開発。結果、TPU膜仕様ではアッパー生地が硬くなりフィッティング時に問題が生じたため、柔軟性の高い3Dプリント手法を採用することとしました。
しかし、選択した3Dプリントも開発初期では水の中という特殊な環境下のため、当社が定める耐久性が確保できず水中耐久テストでは、プリント部が膨潤して屈曲を繰り返すうちに剥離するなどの課題に直面。機械の再選定、塗料資材の再検討、さらにはプリント手順の見直しなど試行錯誤を繰り返しながら、気の遠くなるような開発作業が続きました。
アッパー生地に3Dプリントを施す工程が上手くいけば済むという簡単な話ではなく、今度は製造仕様書に基づいて実際のシューズ形状に仕上げたプロトサンプルを完成させ、フィールドテストでのフィードバックを反映させたセカンドサンプルに繋げていく作業がはじまります。
3Dプリントでの印刷テスト前に、手作業による試作プリントテストの様子
KR_MSF WIDE製品化までの歳月
ほかのシューズとは比較にならないほどのテスト回数ト
フィールドテストでは下記のようなフィードバックを求め、テストが繰り返し行われました。
- アッパーの硬さ
- アッパー補強プリントの耐久性
- 靴紐の食い込み(発泡ラバー厚み調整、ベロ部)
- 足入れ感
- ホールド性/フィット感
- 屈曲性
- 排水性(排水溝設置ダイレクト排水構造)
- 砂、小石の侵入防止
- 足首/くるぶしの保護
- つま先、足側面の保護
- 歩行性能
- 足底衝撃緩和、クッション性能など
写真:杉村 航(山岳フォトグラファー )
これらの項目自体は渓流シューズに限ったことではなく、ほとんどの項目は登山靴メーカー【キャラバン】として、登山靴企画開発時にも用いられている項目ではあります。ただし、これらを水中の中と外の両方でフィールドテストを実施しフィードバックが求められるため、その都度、課題に向き合う必要がありました。たとえば、耐久性を高めるためにはアッパー生地に施す3Dプリントの厚みを増せば解決しますが、一方でアッパー自体は硬くなり重さも増す事になります。さらには屈曲性にも影響を与えるため、屈曲位置のデザイン自体を見直す必要性も生じました。
そのため、製品化までに要するサンプルアップ回数は通常をはるかに上回り、数十回も繰り返し実施され、KR_MSF WIDEの企画開発には一年以上の歳月を要しました。
ついに製品化、KR_MSF WIDE
こだわりポイント
従来の渓流シューズを凌駕する完成度の高さ
KR_MSF WIDEの推しとなる “こだわりポイント” は、主に下記の要点となります。
- 履き口とベロ部をつなぐ、継ぎ目パーツの高さ(砂、砂利の侵入防止)
- 疎水性素材の材料構成(素材自体が水を極力含まず重量への影響を軽減)
- アウトソールの形状(僅かな形状としての絶妙な踵高)
- 素早い排水構造
- アッパー生地補強のシームレス化(ステッチ切れを無くす構造)
- フック/ハトメなどの破損時、素早い修理対応
- エントリー、エキスパート問わず必須とされるディティール
- 沢登り、渓流釣り(ルアー、フライ、テンカラ)いずれにも対応
これらの要点を加味したうえで名づけられた商品名が【KR_MSF WIDE】。
MSFとは「Mountain Stream Felt」、WIDEとは足長や足幅を示すJIS規格のEEEサイズをさらに広めに設定した、3E WIDE仕様であることを表しています。
これにより、カテゴリとしては当初より登攀性を重視した細身ラスト2Eモデルとは異なり、渓流における歩行性能も重視したワイドラスト3E WIDEモデルとして誕生しました
KR_MSF WIDE 商品紹介
100グレー
190ブラック
- カラー/サイズ
- 100グレー /25.0~29.0cm(1cm刻み)
190ブラック/25.0~29.0cm(1cm刻み)
全2色
- 重量
- 約480g(26.0cm片足標準)
- ワイズ
- 3E WIDE
- 素材
- 【アッパー】ポリエステルメッシュ/樹脂(トゥバンパー+ランドラバー補強)
【ライニング】ポリエステルメッシュ
【ソール】13mmPPフェルト(ミッドソール:EVA)
【インソールボード】エクストラライトフレーム
【インソール】EVAインソール
- 機能
-
3E WIDE
フェルトソール